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10.寿命が短くなるって、マジ?|晟

 聖が呼ばれた理由はこれだったんだ。イベントホールの事件や、智孝が言っていた次の任務(・・・・)のメンバーに入っていないことに疑問を抱いていた晟だったが、聖の語る魄や朧についての説明を聞いて納得した。中でも、朧と魄は元々一つ──鬼の力であったということに、有羽は食いつくように聖へと質問する。

「ってことは、魄はその物体のもつ波動を、それ自体を動かすエネルギーに変換するってこと?」
「そう。そして、魄は特に人のマイナスの言葉がもつ波長に合いやすい。だからその言葉から作られている感情自体を増幅させて行動に移すためのエネルギーとなるんだ。とりつかれた人はその間の感情や感覚、記憶はほぼなくなり、欲を満たそうと躍起になる。まさに、鬼のようにね」
「確かに、『鬼』は感情が動かず非道な様子を表すこともあるけど、一つの感情に没頭している状態を表す言葉でもあるわ」

 彩の呟きに聖は頷いてその意見を肯定する。綺麗にまとめてある説明文に目を通しながら、晟も自分の考えを口にした。

「魄とは反対に、朧は自分以外の波動を取り入れてプラスの感情にし、今度はそれを表に出すんだな。『気』や一つの現象として具体化もできるエネルギー、か。つまり、魄がマイナスの力で肉体を動かし、朧がプラスの力で精神を司るってイメージ?」
「そうだね」
「朧を使ってる時は、俺たちの感情もなくなってるってことか?」

 その質問には少しだけ陰りを見せて聖は答える。

「そう、だね……朧は『鬼』の力そのものだと思った方がいい。それが凝縮されて、石という形になってるだけだと。だから朧は、魄から『鬼』を吸収して『白』というまっさらな状態に戻すんだ。字守からは、その人の感情──言葉と鬼の力を魂にして外に出すことができる。いくら自分以外からエネルギーを得られるとしても、それを上回る力を使えば、当然感情や感覚は薄れるし、意識もなくなる。そして寿命も削られてしまう」
「へー! すっごい納得! 面白いね」

 目をキラキラと輝かせて話す有羽に、自分も含め、その場にいた全員が言葉を失った。皆の気持ちを代弁するように、実春が半ば呆れながらも「面白い、のか?」と尋ねる。

「感情や意識がなくなったり、寿命が短くなるんだぞ?」
「えー? ミーちゃんは面白くないの? だって、なかなかない経験ができるんだよ? すごくない? それにさ、もし使い過ぎたとしてもまた補えば問題ないでしょ」
「そうだな。面白いかどうかは別として、自分を保つためにも彩やお前みたいな『講師』がいるんだ。ちゃんと使い方さえわかっていれば問題はない」

 智孝がそうフォローを入れると有羽は顔を輝かせる。

「あの時も言っていたけど、有羽は魄も必要だと思ってるの?」

 今はもうすっかり馴染んだ聖は、有羽の放った意見に疑問を率直にぶつけてきた。有羽はさほど考える様子もなく答える。

「とりつかれた人にとってはツライし、いらないものだと思っちゃうけど、私はその経験はあっていいと思ってる。人間ぽくなるっていうか。何かあれば頭使うでしょ? 私、考えたりするの好きなんだよね。知らないことを知ったりとか、全然違うことなのにつながったりすると面白い! ってなるの」
「……」
「あ、今面白いって思った?」

 驚きの表情を浮かべる聖に、有羽はからかうように言った。聖はしばらく言葉を失って目を(しばたたかせていたが、次第に吹き出す。

「面白い」
「へへ。それにさ、『それだけ』っていうのが私苦手なんだよね。魄をなくせ! やっつけろ! ってことばっかり考えてると、見えるものも見えなくなりそうで。朧だけいてもプラスばっかりになっちゃうし、バランス悪くない?」
「確かに。伊藤先生はどう答えるつもりだったんですか?」
「まあ、こいつと同じく、要はバランスだよな。授業の中でも言ったけど、いくらマイナスの感情や感覚とはいえ、それ自体がなくなるっていうのは避けなければならないことだ。(たい)となる言葉もなくなるしな。どちらかが欠ければ両方が存在しなくなる、と言った方がわかりやすいかな。だから俺も魄を完全には否定しない。浄化する側の立場にいる俺たちは、もう少しそこら辺を理解しないと、朧を扱う以上危険だとも思ってる」

 あまりにも朧だけが強く在りすぎると、今度は自分達が消される対象になり得るという意味だろうなと思った。強すぎる力は、正義であれ悪であれ、危険が伴う。

「なるほど……ありがとうございます。僕の周りには魄を肯定して考える人間は少ないので、とても参考になりました。授業も面白かったです」
「そうか。ならよかった」
「うんうん。私達みたいな優等生がいると、特に面白くなるよね」
「お前の場合は問題児だけどな」
「もう、失礼しちゃうな。兄ちゃんは」

 どこか嬉しそうな声色で有羽は文句を言う。
「あーあ、そんなに面白いんだったら私も受けたかったなー」と残念そうに言ったのは里紗だった。「そうね」と賛同する彩。

「お前たちはもう十分わかってるから必要ないだろ?」
「うわ。先生、わかってないわねー。そうだけど、そうじゃないのよ。先生の授業は面白いんだけど、有羽たちがいるならまた違うでしょ? 実際違ったんだし。だから」
「あー、でも今回は偶然なんだよね。検査の一つに実戦があって、晟に手合わせをお願いしてたんだ」
「検査って……何かあったの?」

 イベントホールで起きたことを知らない聖は、躊躇いながら聞いた。言ってもいいものかと視線を自分に向ける有羽に対し、智孝は講義中に晟達が見ていた資料を聖に渡した。
 晟に届いた招待状のこと、事件の概要とバイオリニストの女性の変貌について、そして有羽の体に起きた異変についてが書かれている方だ。先程聞いた推測の方ではない。
 端末を熱心に読んでいる聖の表情がだんだんと険しくなる。愕然とした何かに、言葉となって口からこぼれた。

「まさか──いやでも、そんなはずは……」

 一度言葉を切って、聖は続ける。

「有羽、もしかしたらという君の可能性は、あとで話すよ。いい?」
「う、うん」

 そう確認をとると、聖はここに呼ばれた本来の目的を話し始めた。

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